大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所 昭和43年(行ウ)2号 判決 1976年3月30日

別府市北浜三丁目五の一七

原告

児玉誠

右訴訟代理人弁護士

臼杵勉

安部萬年

佐伯市松ヶ鼻三、二七六の三

被告

佐伯税務署長

前田弘

右指定代理人

渡嘉敷唯正

樋掛親男

村上悦雄

松村弘

宮田正敏

緒方茂三

須藤重宰

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告

(請求の趣旨)

一、被告が原告に対して昭和四二年三月八日付でした原告の昭和三六年度分総所得金額を金九九九万九、七〇〇円とする再更正処分(熊本国税局長が昭和四三年三月三〇日付の裁決で取り消した部分を除く)のうち金一〇二万一、五八〇円を超える部分は、これを取り消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(請求の原因)

一、原告は、昭和三七年三月一四日被告に対し、原告の昭和三六年度分の総所得金額を金一〇二万一、五八〇円(事業所得金五六万九、五〇〇円、配当所得金九万八、〇〇〇円不動産所得金一六万三、五三〇円、農業所得金一八万四、五五〇円、雑所得金六、〇〇〇円)と確定申告したところ、被告は、昭和四二年三月八日付をもつて右総所得金額を金九九九万九、七〇〇円と再更正し、そのころその旨を原告に通知した。

二、そこで原告は、同月一三日被告に対し、右再更正処分について異議の申立をしたが、同年六月一日付で熊本国税局長に対するみなし審査請求とされ、同局長は、昭和四三年三月三〇日右再更正処分の一部を取り消して右総所得金額を金八三九万六、四五七円とする旨の裁決をし、同年四月九日その旨原告に通知した。

三、しかし、右再更正処分は、熊本国税局長が右裁決によつて取り消した部分を除き、原告の所得金額を過大に評価した違法がある。

よつて原告は、被告に対し、右再更正処分の取消を求めるため本訴に及んだものである。

(被告の主張に対する答弁)

原告が金融業を営み、被告主張のような所得を有する者であることは認めるが、被告主張のような事業所得金額は否認する。

一、事業所得の合計金額は争う。

(一)  総収入金額は争う。

(1) 否認する。

被告主張の利息のうち、利息制限法の制限を超える部分は、原告、赤江間の訴訟事件の判決において元本の弁済に充当されているので結局原告は、元本金二一六万六、二五〇円に対する年一割五分の利息しか収受していない。

(2)

(イ) 否認する。

原告は、昭和三五年四月一八日広津留との間で金三五三万円の貸金債権について買戻権付代物弁済契約を締結したが、同年七月右買戻権が消滅したので右貸金債権は消滅した。

したがつて同年八月以降は右債権について利息の発生する余地がない。

(ロ) 認める。

但し、売買代金を被告主張の日に約束手形で受けとつたこと及び右代金の他に金六万九、五四〇円を収受したことは否認する。

(3) 否認する。

被告主張の遅延損害金は、原告、中津留間の訴訟事件の判決によつて昭和三六年二月七日より年五分の割合で発生するとされている。

(4) 否認する。

(1) 原告が佐藤重遠と被告主張のような売買契約を締結し、その後これが解除されたため、手付金として収受した金一〇万円を領得したことは認める。

(2) 否認する。

(イ) 別表一記載の各物件は原告が取したものではなく、訴外児玉ユクが取得したものである。

(ロ) 同表記載番号1ないし26の各物件は児玉ユクが訴外牛島、同草場に売却したものであるが、その代金は、金六五〇万円であつた。

(ハ) 同表記載番号27ないし40の各物件はいずれも売却されていない。

(3) 認める。

但し、同表記載番号1ないし4及び8ないし10の各物件を取得したのは昭和三四年一二月ころである。

(二)  総必要経費の額は争う。

別表三記載の経費はいずれも認めるが、これにつきるものではない。

(三)  争う。

二  認める。

三  認める。

四  認める。

五  認める。

六  争う。

(証拠)

一、甲第一ないし第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一、二、第一二号証の一、二、第一三号証の一ないし五、第一四号証、第一五号証。

二、証人広津留憲治、原告本人。

三、乙第三号証、第六ないし第一二号証、第一三号証の一ないし一〇、第一四号証、第一五証、第一九号証、第二〇号証、第二三号証、第二四号証、第二六ないし第三一号証、第三二号証の一ないし一四、第三三号証の一、第三四号証の一ないし一四、第三五ないし第三七号証、第四〇号証、第四一号証の各成立及び第二六ないし第三一号証、第四一号証の各原本の存在はいずれも認めるが、その余の乙号各証の成立はいずれも知らない。

被告

(請求の趣旨に対する答弁)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

(請求の原因に対する答弁)

一、認める。

二、認める。

三、争う。

(主張)

原告は、金融業(貸金業)を営み、他に配当所得、不動産所得、農業所得、雑所得を有する者であるが、被告は、原告主張のような確定申告に対して再更正処分をなし、原告の昭和三六年の総所得金額を(1)事業所得金九五四万七、六五〇円(2)配当所得金九万八、〇〇〇円(3)不動産所得金一六万三、五〇〇円(4)農業所得金一八万四、五五〇円(5)雑所得金六、〇〇〇円合計金九九九万九、七〇〇円と決定したが、熊本国税局長において審査の過程で調査した結果、右所総得金額のうち、右(2)ないし(5)の各所得金額は被告の再更正処分のとおりであるが、(1)の事業所得金額は金七九四万四、四〇七円であり、原告の同年の総所得金額は合計金八三九万六、四五七円であることが判明したものであつて、その総所得金額算出の根拠はつぎのとおりである。

一、事業所得(総収入金額マイナス必要経費)合計金一、〇六四万二、一三〇円

(一)  総収入金額合計金一、三五五万八、八六二円

1 利息等の収入

(1) 赤江正男関係の収入金七七万九、八五〇円原告は訴外赤江正男に対し、昭和三六年一月一日現在金二一六万六、二五〇円の貸金債権を有し、同年中に、同訴外人から右金員に対する月三分の割合による一二か月分の利息合計金七七万九、八五〇円の収入を得た。

(2) 広津留憲治関係の収入、金五七万九、五四〇円

(イ) 原告は訴外広津留憲治に対し昭和三六年一月一日現在金三五三万円〓〓〓〓〓円の二口の貸金債権を有し、同年中に、同訴外人から金三五三万円の債権について月二分の割合による同年一月から六月までの利息金四二万三、六〇〓〓及び金一八万円の債権について月八分の割合による同期間中の利息金八万六、四〇〇円、合計金五一万円の収入を得た。

(ロ) 原告は訴外広津留憲治に対する貸金債権の代物弁済として同訴外人から別表二番号8ないし10記載の各物件を取得し、これを昭和三六年一二月一日訴外伊予真珠株式会社に取得価額を上廻る金一七六万一、四一五円で売却し、同日、同額の約束手形を受けとつたが、さらに同日から支払期日までの日歩二銭八厘の割合による利息として金六万九、五四〇円を収受した。

(3) 中津留正男関係の収入、金二八万八、〇〇〇円

原告は、昭和三一年二月一九日訴外中津留正男から宅地、建物及び機械類を金三一〇万円で買受け、その内金として金八〇万円を支払つたが、右中津留が契約どおりの履行をしなかつたので、その後間もなく右売買契約を解除し、同訴外人に対する右金八〇万円の返還請求権と特約に基づく同年五月一日以降完済までの右金員に対する年三割六分の割合による遅延損害金の請求権を取得した原告の右各請求権は昭和三六年五月二八日大分地方裁判所佐伯支部の判決で認容されているものである。したがつて、原告は、昭和三六年中に金八〇万円に対する年三割六分の割合による一年間分の遅延損害金二八万八、〇〇〇円の収入を得た。

(4) 短期小口貸付関係の収入金六万円

原告は昭和三六年中に短期小口貸付金の利息として金六万円の収入を得た。

2 代物弁済として取得した不動産の売買による収入

(1) 佐藤重遠関係の収入金二〇〇万円

原告は金融業に関連して他から代物弁済として取得した不動産である宮崎県東臼杵郡東郷村大字坪谷桑木内一、九三四ノ二山林西三町歩ほか三八筆を昭和三六年四月二五日訴外佐藤重遠に金一、五〇〇万円で売譲す旨の契約を結んだが、同年六月一六日右契約が解除され、右契約に関して収受した以下の金員合計金二〇〇万円を同訴外人に返還せず、事実上領得してこれを収入とした。

(イ) 昭和三六年四月二五日金一〇万円(手付金)

(ロ) 同年四月二六日金一〇〇万円(内入金)

(ハ) 同年五月二五日金五〇万円(内入金)

(ニ) 同年六月二日金一〇万円(契約更新料)

(ホ) 同年六月三〇日金三〇万円(契約延引利息)

(2) 別表一記載物件の売買による収入金七七〇万八、五〇〇円

原告は、訴外綾部一夫に対し、昭和三五年二、三月ごろ合計金七五〇万円を貸付けたが、右貸金債権の代物弁済として同訴外人から別表一記載の各物件を合計金九七九万一、五〇〇円(取得日時、価額の明細は同表記のとおり)で取得し、そのうち同表記載番号1ないし26の各物件を昭和三六年七月六日訴外牛島良一、草場卓爾に金一、一〇〇万円で、同番号27ないし40の各物件を同年一月一日訴外綾部一夫に金六五〇万円でそれぞれ売却し、合計七七〇万八、五〇〇万円の売買利益を得た。

(3) 別表二記載物件の売買による収入金二一四万二、九七二円、原告は、訴外広津留憲治に対する貸金債権の代物弁済として、同訴外人から別表二記載の各物件を合計金一一一万一、九四三円で取得し(取得日時、価額の明細は同表記載のとおり)、これを同表記載のとおり各訴外人に対して売却し、合計金二一四万二、九七二円の売買利益を得た。

(二)  総必要経費 合計金二九一万六、七三二円

別表三記載のとおりである。

(三)  したがつて原告の事業所得は前記(一)総収入金額金一、三五五万八、八六二円から前項の総必要経費金二九一万六、七三二円を控除した金一、〇六四万二、一三〇円である。

二  配当所得

金九万八、〇〇〇円

三  不動産所得

金一六万三、五〇〇円

四  農業所得

金一八万四、五五〇円

五  雑所得

金六、〇〇〇円

六  以上を総合すると原告の昭和三六年度分総所得金額は、金一、一〇九万四、一八〇円となり、被告のなした再更正所得金額(熊本国税局長の裁決により取り消された部分を除く)を金二六九万七、七二三円上廻るので右再更正処分は適法というべきである。

(証拠)

一、乙第一ないし第一二号証、第一三号証の一ないし一〇、第一四ないし第一七号証、一八号証の一、二、第一九ないし第三一号証、第三二号証の一ないし一四、第三三号証の一、二、第三四号証の一ないし一四、第三五ないし第四一号証。

二、証人倉原守彦、同広津留憲治、同綾部一夫、同佐藤長作、同芳野寿子、同山添隆。

三、甲第一ないし第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一、二、第一二号証の一、二、第一三号証の四、五、第一四号証、第一五号証の各成立はいずれも認めるが、その余の甲号各証の成立はいずれも知らない。

理由

一、原告は昭和三七年三月一四日被告に対し、原告の昭和三六年度分の総所得金額を金一〇二万一、五八〇円と確定申告したところ、被告は、昭和四二年三月八日付をもつて右総所得金額を金九九九万九、七〇〇円と再更正し、そのころその旨を原告に通知したこと、そこで原告は、同月一三日被告に対し右再更正処分について異議の申立をしたが、同年六月一四日付で熊本国税局長に対するみなし審査請求とされ、同局長は、昭和四三年三月三〇日付をもつて右再更正処分の一部を取り消して右総所得金額を金八三九万六、四五七円とする旨の裁決をし、同年四月九日その旨原告に通知したことはいずれも当事者間に争いがない。

二、次に被告の主張について判断する。原告は金融業(貸金業)を営む者であり、事業所得の他に配当所得、不動産所得、農業所得、雑所得を有すること、原告は昭和三六年度に、配当所得金九万八、〇〇〇円、不動産所得金一六万三、五〇〇円、農業所得金一八万四、五五〇円、雑所得金六、〇〇〇円を所得したことについては当事者間に争いがない。

そこで原告の昭和三六年度の事業所得額について判断する。

事業所得は一年の総収入金額から総必要経費を控除した金額であるから、原告の同年度における個々の収入、支出につき以下検討する。

(一)  収入

1  利息等の収入

(1) 赤江正男関係の収入

いずれも成立に争いのない乙第三号証、同第三六号証、同第四〇号証、甲第六号証、同第七号証及び証人倉原守彦の証言によつていずれも真正に成立したものと認められる乙第一号証、同第二号証、証人倉原守彦の証言、原告本人尋問の結果を各総合すると、原告は、訴外赤江正男に対し昭和三五年三月二一日金三六〇万四、二五〇円を、弁済期昭和四〇年二月二八日利息月三分(但し昭和三五年三月四日より発生)の定めで貸付け、同年中に同訴外人から別表四の各弁済日に弁済額欄記載のとおり弁済をうけ、その際同表の各充当合意欄記載のとおり充当合意したが、その後全く元利金の支払いを得られないまま昭和三六年一二月末日を経過したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

そして、右認定の各弁済のうち、利息制限法の制限を超えて支払われた利息は、利息として充当合意されたものであつても、その超過部分につき法律上当然に元本に充当されることとなるから、右認定の各弁済を法の定めるところに従つて各充当すると、その残存元本額は同表記載のとおり金一四九万九、四八二円となり、これが昭和三六年一月一日現在における原告の訴外赤江正男に対する貸金債権額となる。

ところで、右残存元本に対する利息は、利息制限法により最高年一割五分と定められているものであるところ、被告は、昭和三六年中に現実に支払いがなされていない利息であつても、月三分(年三割六分)の約定利息をそのまま原告の収入すべき金額として計上できる旨主張するが、一般に利息制限法超過の利息は、現実になお未収の状態にあるかぎり、たとえ履行期が到来してもこれについて収入実現の蓋然性があるものということはできないから、旧所得税法一〇条一項にいう「収入すべき金額」に該当しないものと解すべきである(最高裁判所昭和四六年一一月九日判決参照)。したがつて約定の履行期の属する年度内にその支払いがない場合は、約定の利息のうち法定の制限内の部分のみが課税の対象となるべき所得にあたり、制限超過の部分はこれにあたらないこととなる。

そこで前記残存元本額を基準として法の定める年一割五分の制限内で原告が訴外赤江正男に対して請求しうる昭和三六年一月から一二月までの利息を算出すると金二二万四、九二二円となり、これが原告の同訴外人からの同年中の収入すべき金額となる。

(2) 広津留憲治関係の収入

(イ) いずれも成立に争いのない乙第六号証、同第七号証、証人倉原守彦の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第五号証、証人広津留憲治の証言、原告本人尋問の結果によると、原告は、訴外広津留憲治に対し、昭和三五年四月一八日金三五三万円を月二分の利息の定めで貸付け、その際担保として三年間の買戻権付で同訴外人所有の不動産二二筆の譲渡を受け、連続して三か月以上利息の支払いを怠つたときは右買戻権が消滅する旨の契約を締結したが、同年七月一二日金三万円の利息の支払いを受けただけで、その後右元本及び利息の支払いを得られなかつたため、昭和三六年六月二六日同訴外人との間で右担保物件を改めて評価し直し、一部不動産を同訴外人に返還するなどして同日までの元利金との最終的な精算を行い、確定的に右担保物件の所有権を取得したことが認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右事実によると、原告は、昭和三六年中に訴外広津留憲治から金三五三万円に対する月二分の割合による同年一月一日から六月二六日までの利息金四一万四、一八六円の収入を得たことが認められる。

なお原告は、訴外広津留憲治が右貸金債権について、連続して三か月分の利息の支払いを怠つたことにより、昭和三五年七月前記担保物件の買戻権を喪失したので、原告の同訴外人に対する右貸金債権も同時に消滅した旨主張するが、前記認定の事実によれば、前記貸金契約に伴う担保契約は、一種の譲渡担保契約であると解されるが、このような契約は、特段の事情がないかぎり、債務者の債務不履行があつたときは債権者において目的不動産の価額と債権債務額との精算を要するいわゆる精算型の担保契約であつて、精算までは被担保債権は消滅しないと解すべきであるところ、前認定のとおり、原告は、昭和三六年六月二六日に至つて右の精算を行つているのであるからそれまでは前記貸金債権は消滅していないといわなければならない。

また被告は、原告が訴外広津留憲治に対して金一八万円の貸金債権を有し、昭和三六年中に同訴外人から右貸金に対する月八分の利息金八万六、四〇〇円を収受した旨主張し、前記乙第五号証、同第七号証及び成立に争いのない甲第二号証によれば、原告が昭和三六年一月一日現在同訴外人に対し金一八万円の貸金債権を有していたことが認められるけれども、右貸金について月八分の利息の定めがあつたとの点は本件全証拠によつてこれを認めることができない。

(ロ) 原告が訴外広津留憲治に対する貸金債権の代物弁済として同訴外人から別表二番号8ないし10記載の各不動産を取得し、これを昭和三六年一二月一日訴外伊予真珠株式会社に取得価額を上廻る金一七六万一、四一五円で売却したことは当事者間に争いがなく、証人倉原守彦の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第八号証及び右争いない事実によれば、原告は、昭和三六年一二月一日訴外伊予真珠株式会社から右売買代金額を額面とする手形及び右同日から手形支払期日までの手形金に対する日歩二銭八厘の割合による利息として現金六万九、五四〇円を収受したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。右事実によれば原告は金融業に関連し、これに付随して金六万九、五四〇円の収入を得たということができる。

(3) 中津留正男関係の収入

いずれも成立に争いのない甲第三号証、同第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和三一年ころ訴外中津留正男から不動産等を買い受け、代金の内金として金八〇万円を支払つたところ、その後右売買契約が解除されたため、同訴外人に対して金八〇万円とこれに対する同年五月一日以降右金員の支払いずみに至るまで年三割六分の割合による遅延損害金の支払請求権を取得したが、同訴外人から全く支払いを得られないまま昭和三六年一二月末日を経過したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

ところで、被告は、右金八〇万円に対する年三割六分の割合による遅延損害金を原告の事業所得として計上しているけれども、これは、右売買契約が原告の金融業に関連し、これに付随して締結されたものであつて、これから生ずる収入も原告の事業所得に含まれることを前提として主張しているものと思われるところ、どのように関連するかについての主張は全くなく、本件全証拠を精査してみても右売買契約が原告の金融業に関連して締結されたものであるとの事実を認めるべき証拠も全くない。

したがつて、原告の訴外中津留正男に対する右請求金額が収入すべき金額として原告の事業所得に含まれることは認められないといわなければならない。

(4) 短期小口貸付関係の収入

被告は、原告が昭和三六年中に短期小口貸付金の利息として金六万円の収入を得た旨主張するけれども、証人倉原守彦の証言によつてはいまだ右主張事実を証明するに足りず、他にこれを認むべき証拠はない。

2  代物弁済として取得した不動産の売買による収入

(1) 佐藤重遠関係の収入

原告は金融業に関連して他から代物弁済として取得した不動産である宮崎県東臼杵郡東郷村大字坪谷字桑木内一九三四ノ二山林四三町歩ほか三八筆を昭和三六年四月二五日訴外佐藤重遠に金一五〇〇万円で売渡す旨の契約を締結したが、同年六月一六日右契約が解除されたため、結局同訴外人から手付金として収受していた金一〇万円を領得したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第三七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二二号証、証人茅野寿子の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第三八号証、同第三九号証、証人茅野寿子の証言及び右争いない事実を総合すると、原告は、右売買契約にもとづき昭和三六年六月ころまでの間に訴外佐藤重遠から売買代金の内入金ととして合計金一五〇万円、契約延引利息として合計金四〇万円をそれぞれ受領し、右契約が解除されたにもかかわらず結局これを同訴外人に返還しなかつたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、原告は金融業に関連して取得した不動産の売買に関して合計金二〇〇万円の収入を得たことになり、これは原告の事業所得として計上されるべきものである。

(2) 別表一記載の不動産の売買による収入

いずれも成立に争いのない乙第一〇ないし第一二号証同第一三号証の一ないし一〇、同第一四号証、同第一九号証、同第二〇号証、同第二六ないし第三一号証、同第三二号証の一ないし一四、同第三四号証の一ないし一四、同第三五号証、証人山添隆の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一六号証、同第一七号証、同第一八号証の一、二、証人倉原守彦の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二一号証、証人山添隆、同倉原守彦、同綾部一夫、同佐藤長作の各証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、訴外綾部一夫に対し、別表一番号1ないし26記載の各不動産を譲渡担保にとつて昭和三五年二月二二日金四〇〇万円を月三分の利息の定めで貸付け、同年三月二三日以降は利息を月四分と改め、同訴外人から同年三月二二日金一二万円、同年四月二二日金一六万円の各利息の支払いを受けたが、その後右元本及び利息の支払いを得られなかつたため、昭和三六年一月一日同訴外人との間で右担保物件を多くても被告の主張する右元本とこれに対する昭和三五年五月以降一二月までの月四分の割合による利息金一二八万円との合計金五二八万円を超えない金額で評価して右貸金債権と精算し、確定的に右担保物件の所有権を取得したこと、原告は右各不動産の取得に関し、登録税及び登記手数料として金八万円、不動産取得税として金六万一、五〇〇円合計金一四万一、五〇〇円の費用を支出したこと、原告は、こうして取得した別表一番号1ないし26記載の各不動産を昭和三六年七月六日訴外牛島良一、同草場卓爾の両名に代金一、一〇〇万円で売却したこと、さらに原告は、訴外綾部一夫に対し別表一番号27ないし40記載の各不動産を譲渡担保にとつて昭和三五年三月から四月二二日までの間に数回にわたり合計金三五〇万円を月四分の利息の定めで貸付け、同日金一四万円の利息の支払いを受けたが、その後右元本及び利息の支払いを得られなかつたため、同年一〇月三〇日をもつて同訴外人との間で右担保物件を、多くても被告の主張する右元本とこれに対する同年五月以降一〇月までの利息金八四万円との合計金四三四万円を超えない金額で評価して右貸金債権と精算し、確定的に右担保物件の所有権を取得したこと、原告は、右各不動産を取得するに際し、登録税及び登記手数料として合計金四万円の費用を支出したこと、原告は、こうして取得した別表一番号27ないし40記載の各不動産を昭和三五年一一月一五日訴外綾部一夫に代金五〇〇万円で売却し、同月中に代金全額を受領したが、その後登記手続に関して紛争が生じたため、結局原告は、同訴外人との間で昭和三六年一月一日右売買代金として更に金一五〇万円を追加する旨の契約を締結したこと、以上の各事実が認められ、右認定に反する原告本人及び証人佐藤長作の各供述部分、並びに乙第一〇号証、同第一四号証の各記載部分は措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、原告は、金融業によつて取得した不動産の売買により、昭和三六年中に、別表一番号1ないし26記載の不動産について少くとも金五五七万八、五〇〇円、同番号27ないし40記載の不動産について金一五〇万円合計金七〇七万八、五〇〇円の利益を得たことが認められ、右収入は、原告の同年の事業所得として計上されるべきものである。

(3) 別表二記載の不動産の売買による収入

原告は、訴外広津留憲治に対する貸金債権の代物弁済として両訴外人から別表二記載の各不動産を合計金一一一万一、九四三円で取得し、これを同表の売上金額等欄記載のとおり各訴外人に対して合計金三二五万四、九一五円で売却し、合計金二一四万二、九七二円の売買利益を得たことは当事者間に争いがない。

原告の右収入は、昭和三六年の事業所得として計上されるべきものである。

(二)  総必要経費

原告が金融業に関する必要経費として別表三記載のとおり合計金二九一万六、七三二円を支出したことは当事者間に争いがない。

原告は、さらに右以外にも必要経費の支出があつた旨主張して被告の認定した総必要経費額を争つているが、その数額内容について何ら具体的な主張をしていない本件においてはこれを不存在として取り扱わざるを得ないものと考える。

三、以上認定した事実を総合すると、原告の昭和三六年の金融業に関する収入は前記二(一)1及び2の合計金一、一九三万〇、一二〇円であり、支出(必要経費)は前項記載の金二九一万六、七三二円であることが認められるから、同年度の事業所得は前者から後者を控除した金九〇一万三、三八八円であり、被告の昭和三六年度の総所得金額は、右事業所得に前記配当所得、不動産所得、農業所得、雑所得を加えた合計金九四六万五、四三八円であることが認められる。

そうすると、原告のなした本件再更正処分は、熊本国税局長によりその一部が取り消され、原告の昭和三六年度の総所得金額を金八三九万六、四五七円とする旨の裁決がなされたのちは、原告の所得を下廻つていることが計数上明らかであるから、右再更正処分には原告の所得を過大に認定した違法は存しないものというべきである。

よつて、被告の右再更正処分の取消しを求める本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三宅純一 裁判官 谷岡武教 裁判官 市川頼明)

別表一

<省略>

(注)取得価額(以下合計金)

<1> 綾部一夫に対する貸金元本750万円

<2> うち金350万円に対する昭和35年5月から10月までの利息金84万円

<3> うち金400万円に対する昭和35年5月から12月までの利息金128万円

<4> 登録税9万円

<5> 登記手数料2万円

<6> 不動産取得税6万1,500円

別表二

<省略>

別表三

<省略>

別表四

利率

年15%

日0.04198%

<省略>

注、遅延利息と充当指定されたものは元金の弁済期は未到来であり、利息には当然遅延損害金は付せられないから、遅延利息は存せず、したがつて充当指定はないものとして法定充当した。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例